尊厳死宣言」という仰々しい名称がついていますが、要は不要な延命治療を拒否する旨の意思を示せばよいわけです。いざと言うときに自分でそれが出来れば「尊厳死宣言」など仰々しい言葉を使わずとも、家族や医師にその旨を伝えれば良いでしょう。
しかし、直接伝える間もなく延命治療の判断を行う必要に迫られてしまったときはどうでしょう。交通事故、脳卒中、急に進行してしまった認知症などなど。延命治療の拒否を自分ですることはできないかもしれません。
そのような危険を回避するため「尊厳死宣言公正証書」が存在します。自分の意思を、まだ元気で平穏なうちに残しておくのです。
それではなぜ公正証書なのでしょう。不要な延命治療の拒否を行うのは本人の確かな意思であることが大切です。しかし、口頭で誰かに伝えておく、自分の手で文章にしておく、などでも良いのですが、第三者である医師や、延命治療の拒否に反対する親族への説得力は欠けてしまいます。特に医師は延命治療を行わないという判断により、人が一人亡くなるわけですから責任は重大ですし、尊厳死に反対する遺族からの訴訟の危険性も抱えてしまいます。
そこで公正証書で残す意味が大きくなります。尊厳死宣言公正証書は公正証書の中でも「事実実験公正証書」という部類に入ります。これは公証人が自ら体験した事実を公正証書として残しておくもので、本人が宣言した不要な延命治療の拒否の意思を事実として公文書にて残すということです。
つまり、公正証書として残された尊厳死宣言は、その時点で本人の確かな意思であったという事実が、公証人によって保証されるのです。これにより尊厳死が本人の確かな意思であったか否かについての争いは回避される、もしくは小さくなることが大きく期待できます。